強引な営業に疑問
私はこれまで営業畑で育ってきた人間です。大学時代のアルバイトではテレアポを行い、大学卒業後は不動産会社に就職しました。ハードルの高いノルマと厳しい上司のもと、飛び込み営業や強引な押し売りを強いられることもありました。休みは月に1、2日しかなく、体力的にも精神的にも辛い時期でした。
私が辛いだけなら転職すれば済むのですが、私が転職してもこのような組織は活動を続け、強引に営業されて無理に契約させられる不幸なお客様は今後も増え続けますし、その組織で働く者も幸せになれません。幸せになるのはその組織の上層部と出資者だけです。
今ではそのような強引な営業に直面しても、その会社の口コミがすぐにネットでわかる時代ですし、SNSでその横暴が世間に瞬く間に晒されますが、当時はまだ情報が不足している時代でした。iPhoneを皮切りにスマートフォン革命の真っ只中で、これからフリーのコンテンツやサービスがどんどん登場していく時代です。私はこのスマートフォンに大きな可能性を感じました。
強引な営業マンの口八丁な話を鵜呑みにせず、ポケットからスマホを取り出し、すぐに情報を収集できる。自分がネットでものを買うときにこの利便性を実感しました。これからは営業マンに押されて買うのではなく、いつでもどこでもスマホで様々な情報を収集し、じっくり比較検討してから購入する時代になると思いました。そして、私は営業畑から抜け出し、インターネットでものを売る仕事を志しました。
ネットの世界も同じ
聖域のように感じたインターネットの世界ですが、いざ身を置いてみると、高額な詐欺まがいの情報商材や解約できない定期購入など、リアルと同様にお客様も社員も不幸にする組織がはびこることがわかりました。
インターネットでものを売るにはユーザーのスマホ画面に自社商品をいかに多く表示させるかというインプレッションシェアを多く獲得する必要があります。一方で表示されない商品はインターネットの奥底に消えたままでユーザーに発見されず、日の目を見ることはありません。
このインプレッションシェアを獲得するには多額の広告費が必要です。もちろん多額の広告費をかければ赤字になりますので、広告費を回収して利益を出すために、一度契約した定期購入を解約させないのです。また、定期購入ではない商品の場合は多額の広告費から逆算した高額な販売価格を設定します。大多数のユーザーのスマホ画面を独占し、口コミも捏造して、他社の商品が見つからない状態だと高額な販売価格でも売れていくのです。そこで働く者たちは厳しい上司からの叱責とお客様とのトラブルが絶えない環境で働いています。
このような組織ではお客様と社員の幸せは得られません。幸せになれるのは、その組織の上層部と出資者だけです。リアルでもネットでも、ビジネスの世界ではこれらの方法が正しいのでしょうか?
誠実さという最高の基準を守り、誰かの役に立つ
インターネットの世界を築いてきたIT覇者たちはこのような世界になることを望んだわけではありません。彼らはいつだってユーザーファーストでサービスをアップデートしてきました。
このやり方で利益が出ている、みんなやっている、という理由で私はそのようなやり方でビジネスをしたいとは思いません。誰かの役に立つことこそが使命であり、喜んで頂いた対価に利益があります。誠実さという最高の基準を守り、誰かの役に立つこと、つまりお客様と社員の幸せを実現する方法を追求しました。言うは易く行なうは難しですが、誰かのための高品質で適正価格の商品をつくればお客様から喜ばれるし、お客様に喜んでいただくことは社員にとっても嬉しいことであるという信念を持ちました。
補正下着で事業を興したのは母の経験からでした。友人から紹介された補正下着がとても高く、勧誘はとても強引だったそうです。市場を調査したところ、適正価格で補正下着を販売する競合がいなかったため、私は千載一遇のチャンスを感じました。そこで、妊娠や出産、加齢によってバストや体型が変化する30-40代の女性のために高品質で適正価格の補正下着を提供するラディアンヌというブランドを2014年につくりました。
顧客志向
私は男性ですし、下着について知識や経験はありません。しかし、マーケティングには自信がありました。補正下着をもっと気軽に楽しめる世界を作ることにこの自分の才能の全てを注ぎたいと考えました。協力者を集めるために、お客様と同世代の地元の子育てママや主婦を採用していきました。彼女たちも下着作りの知識や経験はありませんでしたが、女性特有のライフイベントでキャリア形成が阻まれた悔しさを内に秘め、くすぶっていた素晴らしい才能を発揮してくれました。
しかし、私たちは下着に対して素人集団でしたので、自分たちで考えるよりもお客様との対話を重視しました。妊娠や出産、加齢によってバストや体型が変化する30-40代の女性が改めて今の自分の美しさに気づき、再び女性としての自信を取り戻して欲しい!という想いに共感して頂いたお客様との対話を通して、私たちは仕事のやり方を学びました。多くのヒット商品が生まれる一方で、改善や販売中止をした商品もあり、全てはお客様との対話から意思決定をしてきました。日本では2020年頃からこのようなビジネスモデルがD2C(Direct to Consumer)と呼ばれるようになりました。
ラディアンヌは私たちの主観でつくられているのではなく、お客様と一緒にラディアンヌはつくられています。今となってはラディアンヌは創業株主の私だけのものではなく、お客様や社員、みんなのものです。会社という箱を利用して、これからもラディアンヌはみんなでみんなのために多くのことを実現していきたいと思います。